総領事の見聞録第18回

小麦の収穫を体験しました

シュスラー上院議員の農場で小麦の刈り取りをする私

2か月ほど前のこと、私の同僚のもとに、マーク・シュスラー上院議員の秘書から話がありました。「8月前半に小麦の刈り取りをするので、良かったら来ませんか」と。興味があるかと子供に訊いたら「行きたい」というので、子連れでもいいですかと伺うと、「喜んで」とのこと。8月13、14日の二日間、東ワシントン州のRitzvilleという町の近郊にある同上院議員の農場を訪問しました。

シュスラー議員は昨年9月に同僚の議員数名と一緒に日本を初めて訪問し、名古屋や東京の企業や研究所を視察しました。1993年から州の議員を務め、現在は上院で共和党のリーダーです。私は今まで何度かお会いする機会がありました。州の議員は日本と異なり専任ではなく、兼職が認められています。シュスラー議員の家では4代続けて農業を営んでいるそうです。
 

農場に着いて、まず圧倒されたのは農地の広さです。見渡す限り広がる金色の小麦畑は、みなシュスラー議員とその拡大家族の経営する農場でした。広い農地に、彼の家、彼の両親の家、叔父一家の家などの家族の家が点在しています。あとでリッツビル倉庫会社CEOのブライアン・ゴードンさんに伺ったところでは、リッツビルの農場の規模は500エーカーから2万エーカーまでで(2.5エーカー=1ヘクタール)、平均は約2500エーカー(約1000ヘクタール)ですが、最近は農地が集積されて大規模化が進行しているということでした。日本の農地面積の約1/4を占める北海道ですら,農家1戸辺りの耕作地面積は平均27.1ヘクタール(出典/北海道庁「北海道データブック2017」)だそうですから、リッツビルの農場の途方もない広さがご想像頂けるかと思います。なお、リッツビルで収穫された小麦は積み出し駅に集荷され、その多くが鉄道で港まで輸送されます。ゴードンさんの話では、貨車は110両編成で、計40万ブッシェルつまり約11000トンを一回で運びます。収穫された小麦の多くは積み出し駅の脇に山盛りにされ、防水シートをかけて価格の高くなる春まで保存されます。ちなみに、写真の山は1つが約120万ブッシェル(約33000トン)だということです。
 

次に驚いたのは、収穫の現場もほぼ完璧に機械化されていることでした。収穫用コンバインは人工衛星と交信しながら自らの位置を正確に把握し、姿勢を制御しながら毎回数百メートルを一直線に進んで、無駄なく刈り取っていきます。うねっている地面を真っすぐ進ませるのに必要な微調節も,機械が自動的にしてくれます。大型コンバインの鎌の端は、すでに刈り取られた小麦の穂の線から1フィートも離れておらず、全くと言ってよいほど無駄がありません。しかも、コンバインからトラックに積まれる時点で、すでに籾殻が完全に取り除かれています。人手は少なく、資本集約型の生産形態です。脱穀された小麦の粒をそのまま食べてみると、コクがあって美味でした。

シュスラーさんが最初にコンバインを操作したのは11歳の時で、彼は今でも収穫期のこの時期、毎日朝7時から午後9時まで14時間コンバインを操作するのだそうです。また、息子さんは13歳の時に自分のコンバインを使い始め、大学の学資を自分で稼ぎ出したということでした。私と息子はお客さんとして収穫の現場を視察するのでなく、汗だくになるまで働くつもりだったので、何枚もの着替えを用意して勇んで農場入りしました。結果は、汗を全くかかず、果てしなく広がる豊作の小麦畑を何度も折り返して刈り取りながら、シュスラーさんから農業の話を伺うという幸運に恵まれました。

日本で不安視されている遺伝子組み換え技術で小麦を生産しているのか伺いました。答えはNO。「日本は極めて重要な顧客です。我々は、作った物を顧客に押し付けることはできません。我々は、顧客の求めに応じて高品質の小麦を作るのです。」このように話しているとき、刈り取ったばかりの畑にフクロウが姿を現しました。私は、自然に住むフクロウを見るのはこれが生まれて初めてです。フクロウは森に棲んで夜中に活動する鳥だと思っていました。畑には小麦を食べようとするネズミが出没するので、それを狙うフクロウやキツネなどが多いそうです。「フクロウやキツネは大歓迎ですよ。ここでは色々な動物を見かけます。一度など、ヘラジカを三頭見たこともありました。」
 

農水省によれば,2017年の日本の食糧自給率は,消費カロリーベースでは世界の先進国中で最低の38%。需要を満たすために世界各地から大量の食糧を買い付けています。小麦の輸入は570万トンで,そのうち米国が53%の約300万トンを占めています。私が訪問した前日にも、日本から大手製粉会社の社員の方がリッツビルの小麦の状況を確かめに来ていました。ワシントン州は全米でも有数の小麦生産州です。

そう言えば,既に50年以上続いている国際農業者交流協会(JAEC)による米国農業研修は,研修員全員がまずワシントン州で研修を受けてから全米各地の農場に向かいますね。ワシントン州は航空機やテクノロジー産業だけでなく、農業面でも日本と長年深い関係にあります。
 
(左から)私、息子、シュスラー議員