山田総領事(2017.6~2020.7)の見聞禄

平成29年8月7日


プライド・パレード:虹色の旗で街が一杯に

 6月25日の朝、スペースニードルの頂上に、虹色の大きな旗がはためいていることに気が付きました。家内と、シアトルのLGBTプライドパレードは全米でも有数の規模らしいと話していると、それを聞いていた8歳の息子が、「パレード?見に行きたい!」と言います。どうやら、ディズニーランドのパレードを想像したようです。リベラルなシアトルでなら、LGBTでパレードしても衝突のような危険なことにはならないでしょう。家内は助産師で、職業柄LGBTに対して関心があります。それなら行ってみようか、ということになりました。

 LGBTとは、Lesbian, Gay, Bisexual, Transgenderの頭文字を繋げたものです。古代ギリシャ、ローマの昔にさかのぼれば男性同士の恋愛も割と抵抗感がなかったようですが、今では日本を含む多くの国で、性的に「ストレート」でない人は社会から白眼視され、多くの場面で差別的な扱いを受けているのが現実です。それがここ20年位の間に、彼らの性的傾向は自然な要因に基づくもので、長らく言われてきたように道徳的に「堕落」しているからではないということが理解されてきました。今年1月に発表されたギャラップ世論調査の結果によりますと、LGBTの人は米国人回答者の約4.1%に上ります。1 LGBTの人達は認知と権利を求めて社会的に行動した結果、米国を含む国々ではLGBTの権利が徐々に拡大し、ワシントン州では2012年に同性婚が法的に認められました。エド・マレー・シアトル市長が日系人男性と結婚していることは広く知られています。また、最近ではルクセンブルグの首相の同性婚パートナーがNATO首脳会合の際の夫人の会合に出席して話題を呼びました。
 
 パレードは、やはりアメリカ的だなと思いました。スペースニードルのふもとのシアトル・センターでは出店が拡がり、ほとんどの人がトレードマークの虹色のグッズを身に着けています。参加者も沿道の見物人も雰囲気がメチャクチャ明るくて、ありのままの自分のアイデンティティに誇りを持っているようでした。グループごとに趣向をこらして行進する様子は、カーニバルのパレードに似ています。中にはスター・ウォーズのキャラクターも!

 大人の男性同士が手を繋いで歩いているのを怪訝そうな表情で見ていた息子に対し、家内が「世の中には男の人同士、女の人同士で好きになる人もいるのよ。」と説明し、息子は「へえ,そうなの」といった表情で聞いていました。差別された人のアクティブな活動により同性婚をも合法化させる政治風土。この日私は、このような活発な働きかけがワシントン州の魅力である社会の多様性の重要な一つの要素になっているのだなと、自分なりに納得したのでした。
 


ワシントン州の政治家:皆さん親日的

 6月21日、ワシントン州議会で経済の発展と国際関係に関する委員会が開催され、シアトルに在住する総領事や名誉領事が招待された機会に、州都オリンピアに赴きました。

 ワシントン州はいわゆるブルー・ステイト、つまり民主党の地盤だと言われています。確かに2人の連邦上院議員も、州知事も民主党員です。しかし、下院も上院も、民主党員と共和党員の数はほぼ半分ずつであるところを見れば、民主党の堅固な牙城だとは言えません。ワシントン州は縦にカスケード山脈が走っており、その西側の海沿いの地域は元気なハイテク企業が多い、民主党の地盤でリベラルな地域。東側の地域は伝統的に農業の盛んな、共和党の地盤で保守的な地域です。州の東西で政治風土が全く異なっていると言われています。



 サイラス・ハビブ副知事は民主党に所属するイラン系アメリカ人。州の上院議員を務めた後、副知事に立候補して当選しました。彼は8歳の時に癌で失明しましたが、努力を重ねて大学を卒業し、政治家になりました。90年代後半に日本を訪問した際、たこ焼きやお好み焼きといった大衆の味を気に入って、以来、日本食を好物にしているそうです。

 マーク・シュースラー上院議員は共和党の院内総務。リッツヴィル(Ritzville)で五代にわたって農園を経営してきたそうです。執務室ではアメリカらしく手作りのケーキをご馳走になりました。


(写真は左からJudith Warnick上院議員、Mark Schoesler院内総務、Randi Becker上院議員)
 
民主、共和を問わず、両党の指導者が日本とワシントン州の関係の経済的、政治的、文化的つながりの重要性を強調していたことが印象的でした。彼らの表明する日本に対する信頼は、日系米国人や日本人が積み重ねてきた努力と誠実さの賜物です。総領事としてこのことを誇りに思うとともに、今後も日米両国が様々な課題への取り組みにおいて常に未来志向の精神で協力し続けるべきという思いを強くしました。
 
1. Gates, Gary J. "In US, More Adults Identifying as LGBT." Gallup. January 11, 2017. Accessed August 2, 2017. http://www.gallup.com/poll/201731/lgbt-identification-rises.aspx.