山田総領事(2017.6~2020.7)の見聞禄
平成30年10月5日

軍人のミリメシ

毎年9月,ワシントン州の中央部ヤキマにある演習場で,米陸軍と日本の陸上自衛隊による共同訓練が行われています。陸上自衛隊からは毎年異なる部隊が来ています。同演習場で行なわれるものとしては25回目となる今年は,練馬にある第一普通科連隊から町中芳則連隊長・一等陸佐の率いる約130名が約3週間の合同訓練のためにやってきました。私も昨年に引き続き,9月6日に視察に伺いました。第一普通科連隊は首都圏の防衛を任務とする連隊なので,今回は市街戦を想定した訓練が行われていました。ライフル銃で500メートルも離れた的に当てるなんて無理だと思っていましたが,実際に当てるのです。ゴルゴ13に匹敵する射撃の腕は現実にあり得るのですね!

到着して演習についての説明を受けた後,視察に行く前に指揮所で昼食をいただきました。俗に言う「ミリメシ」です。パックに入っているので冷たい食べ物ばかりかと思っていたら,熱いシチューが出てきたのには驚きました。パックの中には,化学薬品の入った白い袋があり,レトルト・パウチ入りのシチューをこの袋とともに堅いビニール袋に入れて水を注ぐだけで,化学反応により90度くらいの熱湯になるのです。火傷しないように組み立て式の段ボール容器にはめて15分くらい置けば,熱いシチューの出来上がり。シチューのほかにもいろいろ選べて,どれも美味。また,野戦の軍人用なので,十分なカロリーが摂取できるよう工夫されており,デザートのクッキーも合わせると一食分のパックは3000㎉にもなるそうです。もちろん長期の保存ができ,常温で3年間は大丈夫とのこと。最近の北海道の地震や西日本の水害を見るにつけて,災害時のサバイバル対策の重要性を考えさせられますが,もしミリメシが普通に売られているならば,ぜひ災害時の非常食として, 我が家に常備したいと思いました。

ヤキマの米軍演習場は東京23区とほぼ同規模で,北海道にある日本最大の矢臼別演習場の約8倍。南北は45キロメートル,東西は40キロメートルもあるので,射撃訓練だけでなく,日本ではできないような砲撃訓練も可能です。私は3カ所の訓練の現場を視察しましたが,それぞれが遠く離れていて,車で一時間近くかかります。シアトルと同じワシントン州ですが,この辺りは州のニックネームのエバーグリーン(常緑)とはほど遠く,荒れた乾燥地です。休憩のために止まったところでは,姿は見ませんでしたが,こちらに警戒してガラガラヘビがあの独特の威嚇音を立てているのが聞こえました。防弾チョッキを着けたまま一時間車に乗っていると,重さで体が硬直しました。

3日後の日曜日には,自衛隊と米陸軍がそれぞれ約50名ほどずつシアトルの旧日系人居住地区にある日系二世退役軍人記念ホールに集まって,第二次大戦に442連隊や陸軍諜報部隊で勤務した退役軍人の方々(御年90歳以上)も一緒に交流行事が行われました。これも約5年 続いている行事です。日本と米国の代表者に混じって,私もスピーチをしました (Beyond Reconciliation: Celebrate Japan-US Alliance and Honor Nisei Veterans総領事挨拶)。この交流行事で出てきた昼食は,スポンサーのおかげで,シアトルにある日本食の業者の作った料理が並び,米国の軍人たちも美味しそうにモリモリ食べていました。そこに来ていた元海軍の退役少将に聞いたところでは,米国軍の中で食事は海軍,空軍,陸軍の順に美味しいのだそうです。

日系二世退役軍人記念ホールで行われた交流行事
諺に「腹が減っては戦ができぬ」と言いますが,夫婦の戦のあとの仲直りのきっかけは,大抵の場合,手作りの食事だと言います。やはり,美味しい食事は健康のもと,元気のもと,そして友好のもとですね。