総領事の見聞録第32回

2つの桜の祭り~その2 桜祭り

前回の見聞録では,日本のアニメとマンガの祭典「サクラコン」についてお話ししました。今回は,4月19日から21日までの3日間,シアトルセンターで行われた「シアトル桜祭・日本文化祭 (以後,『桜祭り』と記します)」についてです。(このイベントから2ヶ月近く経ってしまいました(汗))
 

「桜祭り」は、1976年の米国独立200周年の機会に、日本政府が日米友好のため1000本の桜の若木をシアトル市に寄贈したことがきっかけとなって始まった祭りです。イニシアチブを取ったのは,当時の三木武夫首相。三木首相は1930年代に米国に留学し,シアトルに滞在中には現在も続く北米最古の日本レストラン「まねき」で皿洗いをしていたという逸話を持っています。

桜の寄贈に際して,当時のシアトル市長が日本人コミュニティーに依頼して日本文化を紹介するイベントが行われました。これが最初の桜祭りで、毎年引き継がれて今日に至っています。初めの頃はスワード公園で行われていましたが、1979年に現在の会場であるシアトル・センターに移ってきて、今年は40周年を迎えました。
 

シアトル・センターに移った時から桜祭りを進めてきた中心人物が、佐々木タヅエ、豊ご夫妻です。現在、100以上の団体が参加し800人のボランティアが支えるこのイベントを訪問する人は2万人以上。日本文化に触れるため遠くからバスで乗り付けてくる学校もあります。桜祭りの会場では,生花、書道、囲碁、武道、着物の試着、折り紙,日本舞踊など日本の様々な伝統文化を体験できます。ほかにも,手毬や網み紐のような,珍しい伝統工芸品の製造実演なども見ることができます。私の息子は,兵庫県の播州算盤協同組合が実施したワークショップに参加して,丁寧に教えてもらって作った算盤を持ち帰りました。
 

桜祭りでは日本にちなむ工芸品や小物の展示販売もやっており,掘り出し物がないか探すお客さんが沢山います。私は,お寿司を紹介した本を見つけたので,買いました。買い物といえば,堺市で製造された庖丁が売られており,一丁買いましたが,そのあまりの切れ味に家内は感動していました。タコ焼きや牛丼などのB級グルメを食べ歩くことも,桜祭りの楽しみの一つですね。日本の屋台メシはアメリカ人の間にもかなり人気があるようです。シアトル・センターでは,太鼓の演奏に惹かれて会場に足を運び、タコ焼きやカレーライスなどを食べながら日本文化に触れる多くのアメリカ人家族の姿が見られました。

この週末,シアトル・センターでは八重桜が盛りをちょうど過ぎたところでした。桜の若木を植えても直ぐには見栄えがしませんが,やがては成長して美しい花を咲かせてくれます。大きくなった桜の木に咲く美しい満開の花を楽しむ人は,昔の人がどのような思いを込めて若木を寄贈したのかも知るようになるでしょう。植樹は国際青年交流とよく似ており,次の世代のためによきものを育てて伝えていこうとする優しい心の現れです。米国に滞在する間に日米関係の悪化する様子を感じながらシアトルで過ごした三木首相は,戦前すでに政治家として日米関係改善のために熱弁を振るっていました。彼の願いは叶わず,日米は数百万人の犠牲者を出す戦争をしました。戦後30年経って首相になってから,将来世代の相互理解と友好を願ってアメリカに桜の若木を贈った心に深い敬意を感じざるを得ません。
 

「桜祭り」の伝統文化と「サクラコン」のポップカルチャー。2つの祭は違ったものを扱っていますが、やはり根っこは共通だと感じます。漫画やアニメに出てくる弁当や習字を見て日本食や書道に興味を持つようになれば、そこには奥の深い伝統文化の世界が待っています。日本の伝統文化は,テクノロジーの進歩が激しい現代のアメリカにあって独特の魅力を持ち続けているようです。伝統文化とテクノロジーをもっと直接つなげて新しい文化の形が生まれないものでしょうか。これについては,来年春に一つ企画があります。お楽しみに。