山田総領事(2017.6~2020.7)の見聞禄

令和2年3月27日

ワシントン州のバンクーバー市

グーグルでバンクーバーと検索すると,真っ先にカナダのバンクーバーが出てきますが,ワシントン州にもバンクーバーという重要な市があることをご存じでしょうか?どちらのバンクーバーも,18世紀末のイギリスの探検家ジョージ・バンクーバーにちなんで命名されました。(でもやっぱり紛らわしいですね。2010年のカナダのバンクーバー冬季オリンピックの時には,ワシントン州のバンクーバーのホテルに予約の電話をしてきた人が沢山いたそうです。)
 
2月末,私はアメリカのバンクーバーを訪ねました。シアトルから車で南下すること約3時間,オレゴン州の大都市ポートランドからコロンビア川を挟んで対岸にあるこの市は、ワシントン州で4番目に大きな市です(現在の人口は18万7千人です)。バンクーバーは州境にあるので,ワシントン州とオレゴン州の税制の違いに着目して独特の経済構造が生まれています。ワシントン州には法人税と所得税がありませんので、企業進出が盛んです。オレゴン州には物を購入する際に掛かる売上税(消費税)がありません。このため,「バンクーバーに住んでポートランドで買い物をする」のが「スマートな」行動だという話を聞いたことがあります。確かにバンクーバー市内ではあまり沢山お店を見かけないような気がしますが、本当のところはどうなのでしょう?

 

バンクーバー市のアン・マッケンナーニ=オグル市長と私,市庁舎で記念撮影

バンクーバーのアン・マッケンナーニ=オグル市長は,30年間オレゴン州の公立学校で数学の教師をしていた経歴の持ち主です。10年間にわたり,オレゴン州の数学雑誌の編集長も務められました。市長の案内で市庁舎を歩くと,姉妹都市である京都府城陽市から贈られた日本のものが沢山展示されていることに目を見張ります。今年は両市の姉妹関係25周年に当たり,市長は訪日を楽しみにしているということでした(コロナウィルスの状況が許せば,ですが・・・)。

 

京都府城陽市の子供たちによる絵

「市は今,とても力強く成長しています」と述べて,多くの数字を挙げて好調な経済を語る市長の姿は,元数学教師であったことを彷彿とさせるものでした。バンクーバー市は工場が多く産業が発展しているため,昼の人口は居住人口よりはるかに多くて,州で2番目になるそうです。最近はハイテク分野のスタートアップ企業が多数進出しているということでした。ポートランドには半導体製造の大手,インテルが本社を構えていて半導体製造のエコシステムが形成されており,日本から信越化学や京セラなどの会社がバンクーバーに進出しています。
 
また,市内のクラーク・カレッジは京都女子大学との関係が深く,同大学の留学生が英語を学びに来ています。カレッジ構内には寄贈された約100本の桜の木があり,毎年春になると桜祭りが開催され、多くの人で賑わうそうです。市長は,今年は例年より暖かいので桜が早く開花してしまうのではないか気になっている,と述べていました(注:その後,コロナウィルスにより,桜祭りもキャンセルされました)。
 
 

United Grain社コントロールルーム

バンクーバーは,ワシントン州,オレゴン州,そしてモンタナ州で取れた穀物の積み出し港としても有名です。市長の話では,バンクーバー港には毎日,小麦,トウモロコシ,大豆などの穀物約35万ブッシェル(小麦なら約1万トン弱)を積んだ110両編成の穀物貨車が11本入ってくるということです。穀物はまた,川を下ってバージで運ばれてきます。私は同僚の石川領事とともに,三井物産の米国穀物会社であるUnited Grain社を訪問しました。同社の本吉陽一副社長のお話では,積載量が6万トンの船を用い,毎月平均8隻程度積み出して,年間約600万トンを日本や東南アジアの国々に輸出しているということです。アメリカ西海岸には米国の大手穀物輸出会社等が積み出し施設を運営していますが,United Grain社は顧客のニーズに合わせた柔軟な積み荷作りをするサービスが強みだということでした。
 

United Grain社を訪問する石川領事と私

穀物輸送に必要な時間は,バンクーバーから日本までは2週間前後,ニューオーリンズからパナマ運河を経由した場合は約1ヶ月以上だそうです。それだけ聞くと,バンクーバーから輸出される穀物が安くて競争力があるように聞こえますが,ミシシッピ川をニューオーリンズまでバージで運ばれてくる穀物は,産地からの国内輸送賃が安いため,アジア到着時の価格はワシントン州からの穀物と同水準であり常に競合しているのだとか。最近は,南米における穀物生産量の増加のみならず通貨安もあり,ブラジルやアルゼンチンの穀物の輸出が増えていて米国産穀物との競争が激しくなっているということでした。
 
埠頭を案内してくれた人の話では,穀物積み込みが行われる恩恵で,コロンビア川のサケは太っているそうです。一方,港に雀の数が少なかったのは意外でした。私が雀なら,穀物積み出し港に住みたいと思うでしょうから…。