山田総領事(2017.6~2020.7)の見聞禄

令和2年4月17日

新型コロナウィルスの来襲


全世界を新型コロナウィルスの危機が覆っています。学校ばかりでなく,レストランや小売店すらも閉まっています。世の中の様相が一変してしまいました。
 
新型コロナウィルスの感染が世界で最初に発生したのは中国の武漢市です。情報統制の厳しい国なので正確なところはよく分からないのですが,1月23日には武漢市全体が封鎖され,中国国内の移動に厳しい規制が敷かれました。米国での新型コロナ感染が最初に発見されたのはワシントン州で,武漢に渡航した男性の感染が発表されたのが1月21日でした。


静まりかえったシアトルの街 (写真:アルバート・ラモス)
 
2月29日の土曜日,総領事公邸では,生け花の小原宏貴家元をお迎えして,生け花のデモンストレーションとレセプションを行っていました。そのとき,館員から,「カークランドの高齢者介護施設で米国最初の犠牲者が出て,インズリー州知事が直ちに緊急事態を宣言したというニュースが流れています」と知らされました。2月にはイタリア,韓国,イランなどでの感染拡大が報道されていましたが,米国ではまだ対岸の火事のような受け止め方をする人も多かった時期です。ついに来るものが来た,と思いました。翌日にはさらに1人,その翌日には4人が亡くなり,その介護施設以外でも次々に感染の拡大が報告されます。我々は,直ちに3月中旬に予定していた天皇誕生日レセプションの中止を決定、シアトル市でも漫画の祭典コミコンやサクラコン、マリナーズの開幕ゲームなど,次々にイベントの中止が発表されました。
 
『パンデミックを前にして,在留邦人の方に対して、正しい情報をどのような形で発信するか? 次々に発表される渡航規制や行動規制が在留邦人に迅速に周知できているか? 人の集まる領事窓口で職員や訪問者をどのように守るか? 帰国者が受ける検疫の体制について我々はきちんと説明できるか? 航空機の運航状況は? 在留邦人に重篤な感染者が出たとき,病院や関連機関と連絡する体制は万全か? 日本の家族が見舞いに来ることは可能か? 日本政府の措置を州政府等の行政機関に迅速・確実に連絡したか? 経済活動ができないなかで,邦人の中小企業が利用できる支援策は何か?……』
 
総領事館では州知事の緊急事態発表の後、テレワーク中心の勤務態勢に切り替えて、これらの課題に取り組んでいます。東京の本省に事態の説明を行った結果、申請者や領事館職員の感染する機会を減らすために,領事関係の申請手続きは窓口に来ていただくのでなく、郵送で受け付けることになりました。今までに経験したことのない事態のため,テロや大規模災害への対処のような“対応マニュアル”もありません。従来のやり方ではうまくいかないことが沢山あります。そういうときには,外部の方々に意見を求め,「一人でも多くの人に正確で意味ある情報を提供するためには現時点で何をすべきか」という視点に立って,議論しながら措置を決めていきます。


営業中のお店はあらゆる手段で皆の安全を守りながら頑張っています。
 
ワシントン州では,3月23日にインズリー知事が全州の住民に自宅待機令(Stay Home, Stay Healthy Oder)を出し,この措置は最近,5月4日まで延長されました。ワシントン州を見ていると,州知事や郡長,市長たちが,研究機関のデータ分析に基づき、早い段階から断固とした措置を打ち出し,テレビで直接市民に丁寧に説明し,市民もそれをよく守っていることが分かります。お店の入り口やレジでは,6フィート(約2メートル)の「社会的距離」がよく守られています。人口約770万人のこの州では,4月15日までに約12万5千件のPCR検査が行われ,1万1000人近い感染者が確認され,600人近い方が亡くなりました。


6フィートの間隔を開けた「社会的距離」
 
4月に入ってから,ワシントン州の感染者の増加がピークを過ぎたと見られるという専門家の分析が報道されています。希望を持たせるニュースですが,油断は禁物です。そのうえ,世界中で経済活動が麻痺しており,失業者が急速に拡大しています。日本では,4月7日に7都府県を対象として発出された緊急事態宣言が,16日には全国に拡大されました。今後も暫く厳しい状況が続くでしょう。皆様くれぐれも、心と体の健康にお気をつけてお過ごしください。
 
当館ではFacebookでも日々様々な情報を発信していますが,感染症関係の情報が皆様の目につきやすいようにと,職員が赤いロゴを作ってくれました。感染を防ぐために家に一日中閉じこもる生活の中で,誰しもが精神的に辛い生活を送っています。テレビをつければ新型コロナウィルス感染にまつわる暗いニュースばかりで、明るい話題はほとんどありません。そんな大変な状況の今日この頃ですが、総領事館の同僚たちは皆様に少しでも温かい気持ちになって頂きたいと、ペットや食べ物のことなどの話題を探してアップしています。感染症関係の情報以外でもぜひ、当館のFacebookをご覧ください。


Stay Safe シアトル! (写真:アルバート・ラモス)