山田総領事(2017.6~2020.7)の見聞禄
令和2年5月28日

女性のリーダーに期待しています
COVID-19がシアトルで流行し始める前の2月25日,ワシントン州日米協会が”Empowering Women in Japan and the United States”というシンポジウムを開催しました。NHK国際放送局の有名なジャーナリストの道傳愛子さん,マイクロソフトのチーフデジタルセキュリティーオフィサーであり,昨年まで元シアトル港の理事を務めていたコートニー・グレゴワールさんが,それぞれ自ら体験した”ガラスの天井”について語りました。モデレーターはローリ・マツカワさん。会場からも,女性が社会の中でより大きな発言力を持つ意義と,それを妨げている要因などについて,多くの質問や意見が出されて盛り上がりました。

"Empowering Women in Japan and the USA" Symposium: (左から)私,ローリ・マツカワさん,コートニー・グレゴワールさん,道傳愛子さん
私は,今まで,ワシントン州で女性の市長に会うことが多いという印象を持っていたので,掘り下げて調べたところ,非常に興味深いことを見つけたので,冒頭の挨拶で言及しました。ワシントン州で人口の大きい4都市(シアトル,スポケン,タコマ,ヴァンクーバー)は全て市長が公選で選ばれた女性です。第5位のベルビュー市では市長が市議会の互選によって選出され,現在の市長は女性です。第6位,第7位のケント,エヴァレット市もまた女性の公選市長です。ワシントン州では人口が大きい都市のトップ7がいずれも女性市長なのです!これらの都市はいずれも日本の市と姉妹関係を結んでいますが,日本側の姉妹都市の市長は,いずれも男性です。また,市議会議員と女性市議の数を比べてみると,シアトルは9人中6人が女性(女性は全体の67%)であるのに対し,姉妹都市の神戸は69人中15人(22%)です。スポケンは7人中5人(71%)が女性で,姉妹都市の西宮は40人中6人(15%)。タコマでは8人中3人(38%)が女性であるのに対し,姉妹都市の北九州は57人中11人(19%)。ヴァンクーバーは6人中3人(50%)が女性である一方,姉妹都市の城陽市は20人中6人(30%)という具合です。
![]() シアトル市ジェニー・ダーカン市長 (写真:シアトル市) |
![]() スポケン市ナディン・ウッドワード市長 (写真:スポケン市) |
![]() タコマ市ビクトリア・ウダーズ市長 (写真:タコマ市) |
![]() バンクーバー市アン・マクエナリーオーグル市長 |
![]() ベルビュー市リン・ロビンソン市長 (写真:ベルビュー市) |
![]() ケント市ダナ・ラルフ市長 (写真:ケント市) |
![]() エバレット市キャシー・フランクリン市長 (写真:エバレット市) |
ちなみに,姉妹関係にある兵庫県とワシントン州では,知事はどちらも男性です。議会のメンバーを比較すると,ワシントン州は全体で147人中55人(37.4%)が女性であるのに対し,兵庫県は86人中13人(15%)が女性となっています。上記の市議会を含め,ワシントン州は地方議員の女性の比率が日本よりはるかに高いことが数字に示されています。女性リーダーたちが,ホームレス問題やCOVID-19関連の各種対策において,法案や予算のイニシアチブを積極的に取る姿が印象的です。
現在のCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)パンデミックの下で,女性の政治リーダーの活躍が話題になっています。女性リーダーたちは,行動制限について断固とした姿勢をとりつつ,その必要性を丁寧に社会に対して説明して,感染拡大防止の成果を上げています。最も注目されているのはニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相でしょう。彼女は医学専門家とともに記者会見を行って明瞭なメッセージを出すばかりでなく,閣僚全員の給与の20%削減を決定したり,自宅で撮影したビデオでニュージーランドの子供向けに優しい言葉で語りかけたりしたことが話題になっています。同国では,国内感染者の発生をゼロに押さえ込むことに成功しました。台湾の蔡英文総統の取り組みも賞賛されています。台湾は,コロナウィルスの発生源である中国との人的往来が極めて多いにも拘わらず,感染症学者である副総統とともに非常に効果的な対策をいち早く実施して,感染数を最小にすることに成功しました。台湾はまた,日本に対してもマスク200万枚を寄贈するなど,他国のコロナとの闘いも支援しています。そのほか,ドイツのメルケル首相,ノルウェーのソルバーグ首相,アイスランドのヤコブスドッティール首相などの取り組みも国際社会で高く評価されています。日本でも,小池百合子東京都知事が連日の記者会見で見せるリーダーシップが注目されています。
![]() ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相 |
![]() 台湾の蔡英文総統 |
女性が意思決定に関与し組織をリードすることの重要性は,ビジネスの世界でも指摘されています。3月初めのThe Brussels Timesの報道によれば,ムーディーズが調べたヨーロッパの540社の企業のうち,クレジット評価がAの会社の取締役会のメンバーに占める女性の割合は34%でした。米国については,昨年11月のブルーンバーグ社の報道によれば,AAAのクレジット評価を持つ会社の取締役会のメンバーの28%が女性だそうです。同社のキャサリーン・グレイフェルド記者は「クレディ・スイス社が世界の3400社を2016年に調査したところ,経営陣が多様性を備える会社はそうでない会社よりも資本の収益率,配当,市場価値が高いことが判明した」と書いています。https://www.brusselstimes.com/all-news/business/98168/europes-best-rated-companies-have-more-women-in-charge/
日本社会では,もう長いこと,政治や経済の硬直性が指摘されています。技術や国際環境が激変している今日,時代に適応した柔軟な対応を取るためには,意思決定者の中に多様性が必要です。移民の少ない日本で多様性を実現するうえで,まず手っ取り早い方法は,女性が組織の経営に参加することでしょう。日本のリーダーの中に,似たようなプロファイルを持つ男性リーダーが多く,女性リーダーが少ないという意思決定プロセスの現実を変えることが,日本の再活性化に必要だと私は思います。新型コロナのもたらしている社会危機は,女性の社会進出にどう影響を与えるのか,今後の動きを見守りたいと思います。